ブラック治療院「あるある」と労働基準法

鍼灸師・鍼灸学生
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労働者(=勤務鍼灸師)を守る法律

労働基準法とは「鍼灸師が治療院で働く際の時間・賃金・休日など(=労働条件)についての最低限の基準になる法律」です。
立場の弱い労働者の働く環境の保護が目的の「労働者寄りの法律」です。

逆に言えば、雇用者側(院長やオーナー)は、鍼灸師を雇うからにはこの法律を守らなければならなりません。

労基法の3つの特徴

労働基準法には話したいことが盛りだくさんありますが、とりあえずここでは3つの特徴について簡単に解説します。

  • 法律で定められている規定を守らない場合には、罰金から懲役までの罰則が設けられている。
  • 労働基準法の基準を満たさない労働契約を結んでいても、その部分については無効になる。
    また無効になった部分はこの法律の基準になるというものです。
    たとえば「週1回は休みを与える」という労基法の基準があるので、労働契約で「週7日勤務」と書かれていてもその部分は無効で、週1日の休みは取れることになります。
  • 労働基準法が守られているかを監督する機関がある(労働基準監督署)
    そして労働者側から(もし会社が労基法に反している場合は)、労働基準監督署に申告出来る。

うん、なかなか労働者思いの制度ですね。

ブラック治療院あるある実例

今回は治療院の労働条件の「あるある」が、労基法では違反である実例を書いてみようと思います。

給与があまりにも低い

月給5万とか10万円とか、よく聞くハナシです。
整骨院よりも鍼灸院のほうがより、「修行中は薄給でOK」なブラックな気配が濃厚な気もしますよね・・・。

しかし、労基法では「最低賃金」という決まりがあります。
たとえば東京都では2019年10月から1,013円になりました。

これは何もパートなどの時給制の人だけではなく、月給制の人もコレを基準にしています。

計算方法は、
月給 ÷ 1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額
です。

ちょっと面倒なので、モデルケースで説明します。

Aさん(東京の鍼灸院勤務)の例

基本給が月150,000円通勤手当が月5,000円支給とします。
ある月は、残業代が35,000円支給されたとし、合計が190,000円となったとします。

なお、Aさんの治療院は、年間労働日数は260日・1日の労働時間は8時間とします。
規則上の東京都の最低賃金は時給1,013円です。

Aさんの給料が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。

1)通勤手当や残業代は計算にカウントされませんので除外します。

190,000円-(5,000円+35,000円)=150,000円

2)この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較すると、

(150,000円×12か月)÷(260日×8時間)=865円

となり、最低賃金額(1,013円)以下となり、労基法違反です。

こうみると、固定給で約18万円はないと最低賃金は越えませんね。
早急にAさんの基本給を18万円にはした方がよさそうです。

昼休みに電話番はありか?

労働時間は1日8時間までと労基法では定められていますので、労働時間は8時間のところが多いです。
「9時~18時勤務で昼休み1時間」という感じです。

治療院でも昼休みは通常、労働時間にはカウントされていませんよね。
たとえば労働時間は、9時から12時・15時から20時で8時間、のような感じ。
「12時から15時は休憩時間だから」という理由になっています。

この「休憩時間」にも決まりがあります。

・6~8時間勤務の人には最低45分は与えること
・労働時間中にとらせること
・その時間は自由に過ごしてよい

注目はとくに最後のやつですね。

会社側の指揮命令のない自由が保障された時間が休憩時間です
ですので、予約の電話が鳴ったら出なければいけないとしたら「それは労働時間」です。

基本的には外に出て過ごしてもいいはずだし、自由な時間ですから、業務をしなければいけないはずはないです。

月給制の人の残業代って?

最初に、そもそも残業代とは特殊ルールです。

「1日8時間・週40時間の労働時間を越えてはいけない」のが本筋のルールですから、本来であれば残業代が発生することはありえないはずです。
しかし、そうは言っても残業は出ちゃうよね、ということで、それを認めてルール化しているわけです。
まず残業や労働時間に関する約束を労使で結ぶ必要があります
それが「36(サブロク)協定」です。
1枚ペラの用紙ですが、それを取りまとめて労働基準監督署に提出する必要があります。
ですので、残業代に関して云々するときは、まず「36協定ってありますか?」と院長先生に聞いてみたほうが良いでしょう

さて、36協定がある前提で、残業代のハナシ。

残業代にもルールがあります。

時給制のパートさんの場合は、簡単に言えば「1時間多く働いたら1時間分の時給プラス」という感じで感覚的にも分かりやすいですが、月給制の人の場合はどうでしょう?
※正確にはパートさんの場合も計算はそう単純ではないですがココでは月給制の人の話をしたいので簡略化。

月給の人の時間給の計算

まず月給制の人は「自分の時間給」を計算します。

必要な情報は「年間休日」「1時間の勤務時間」「月の給料額」です。

先ほどのAさんのケースをもう一度出します。
(Aさん:年間260日勤務・1日8時間労働・月給18万円)

(180,000円×12か月)÷(260日×8時間)=1,038円

Aさんの時間給は1,038円です

残業代のルール

残業代は、残業した時間を単に時間給で乗せていくだけではありません。

  1. 普通の「時間外労働」なら25%増しです。
    時給1038円のAさんなら、1,038円×1.25=1,298円
  2. その残業が22時~翌5時までだったら「深夜労働」が加算となりさらに25%増し(つまり合計50%)です。
    Aさんなら、1,038円×1.5=1,557円
  3. 休日出勤して8時間以上余計に働いたら「休日労働」となり35%増しです。
    Aさんなら、1,038円×1.35=1,401円

・・・とまぁ、結構複雑な計算になってきますね。

月給制の人も残業代をもらう権利はあります。
しかも、それは通常の時給換算の賃金よりも上乗せされた額です。
しっかり加算されているかどうか、給与明細を見て確認してみてください。

出勤途中、階段で転んだ!どうなる!?

「労災保険」とは、雇用した労働者が業務上または通勤途中に負傷・疾病、障害または死亡した場合に保障が出る保険です。

そんな勤務鍼灸師にとっては心強い味方の労災に、もし会社側が未加入だったらどうしましょう!?

通常、治療院の院長先生は個人事業主でしょうが、個人事業主でも一人でも人を雇った場合には、必ず労災保険に加入しなければなりません
労災保険は、パートも正社員も原則強制加入です。

そのため、加入手続きを行うのは会社側(院長先生側)ですし、未加入でペナルティを受けるのも会社側となります。

もし会社が労災保険への加入手続きをしていなかった場合、労働者側には過失がないため、労働者は労災保険を受けることができます

  • 労災を必要とする前に未加入に気づいたら、労働基準監督署に相談しましょう。
    治療院側に勧告してもらうようにします。
  • すでに怪我をしてしまった後だったら、病院で診察を受ける際に労災であることを伝え、労働基準監督署で手続きします。
    未加入でも労働者に非はありません。
    労働災害による怪我や病気と判断されれば給付申請を行うことができます。

ちなみに、
労災保険の未加入が発覚した場合、会社側は過去2年遡っての保険料の遡上・追加徴収を受けます
保険未加入は労働基準法違反にあたります。

治療院側(院長先生側)が気をつけること

有給休暇男女均等・機会均等などの基準と、まだまだ話しきれていないネタも多いですが、今回はこの程度にします。

しっかりルールにのっとってやられているところもあるでしょうが、休日・労働時間・最低賃金だけみてもホワイトな鍼灸院がどれほどあるか疑問です。

労基法などのルール自体を知らない院長先生も少なくないのでは・・・。
自分たちや友人知人の先生たちが、あまりに当たり前に「ブラック」だったから、本当の基準を知らないまま「業界のスタンダード」だけを身につけ、それをスタッフ(労働者)に負の連鎖で押し付けてしまっていることもあるでしょう。

ただし、どうやら自分たちのスタンダードは「世の中の非常識」らしいぞと気づかれたら、改善です。

雇用契約書

まず人を雇う際に必要になるのが「労働条件の通知」です。
こんな条件で働いてくださいねということです。
書面で通知する必要がありますので、具体的には、次の5つの項目を意識してください。

(1)無期契約か有期契約かといった労働契約の期間に関すること
(2)就業の場所や従業すべき業務に関すること
(3)始業及び終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇など労働時間に関すること
(4)給与の計算や支払いの方法や支払日に関すること
(5)退職手続きに関すること

方法は一般的に「雇用契約書」という形が一般的かと思います。

36協定

また「36(さぶろく)協定」も重要です。
正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」といいます。

「36協定届」を労働基準監督署に届け出ずに労働者に時間外労働をさせた場合、労働基準法違反となります。

この書類は労働基準監督署に提出して初めて効力が発生しますので必ず労働基準監督署に提出しましょう。

法定三帳簿

雇用をしたあとにも、治療院側(院長先生側)は「法定三帳簿」と呼ばれる書類を作成して保管する義務があります。

具体的には、
1. 労働者名簿
2. 出勤簿
3. 賃金台帳
の3つが労働基準法において、雇う側が作成しなければならない書類となっています。

「労働者名簿」は、住所・氏名・生年月日・性別・雇った日などの基本的な情報を記録した書類のことです。
「出勤簿」は、出勤した日や、出勤時間・退勤時間・休憩時間を記録した書類です。タイムカードなどの形での記録が望ましいです。
「賃金台帳」は、給与明細(基本給と手当部分、天引きした所得税などの金額、手取り額など)を記録した書類です。

法定三帳簿は義務です。
それに加え、退職時にも必要になったりと、実際的に活用される書類だったりします。
しっかりと記録して、保管をしておきましょう。

まとめ

私も以前、パート鍼灸師を雇用していましたが、ひとりのために雇用契約を結んだり、就業規則作ったり、36協定結んだり、労災保険・雇用保険などにも加入して、事務仕事がかなり面倒でした。
※もちろん、それに見合うだけの労働を提供してくれたので満足していますが・・・。
でも、ここまで気を配って雇用している人がどのくらいいるのか?
そんな疑問もわきます。
私自身、雇用した後になって初めて学ぶことが多かったですから。

そもそも人を雇う時期って、忙しい時期じゃないですか。
自分の治療が手一杯で、他人の手を借りたいから雇用するわけで、そんな忙しいさなかに労働基準法の勉強なんて正直難しいですよね。

人を使っている鍼灸師さんはさぞかし大変だろう、と思うしだいです。
人を雇うというのは、正直、非常に面倒な作業です。

ひとりで院を経営していることのなんと気軽なことか!

就業規則を作ったときに、社労士の先生に次のようなことを言われました。

完璧に法律を守ることは必要ですが、実際の運用上、グレーだったりあやふやだったりする領域もあります。
それでも労使がもめずに和気あいあいと仕事をしている会社もあります。
一方、労使がもめる時は、原因は法律違反があったからなのですが、それ以上に「感情的なもつれ」が真の原因です。
労使の意思疎通やコミュニケーションが円滑であれば、制度の良し悪しではなく雇用は安定するものです。

たしかに。
信頼できる院長・ついていきたいと思える院長の下で勤めていたら、若干ブラックだったとしても「いられるだけでありがたい」と思うかもしれません
逆に、非人道的な院長の下だったら、辞めるときに法律違反を訴えるかもしれません。

同じような雇用条件の治療院でも、このように違ってくるかもしれない・・・とは容易に想像がつきます。

ですので、やはり大事なのは「人間関係」です

院長として人を雇用するなら、スタッフのことも考えてあげられる院長。
勤めるなら、院長のことも思いやれるスタッフ。
そんな関係性がある治療院でありたいですね。
理想ですが、目指しても良いのではないでしょうか。

私は、もう少し、ひとりを楽しんでおきます。
またいずれ雇用することもあるかもしれませんので・・・。

プロフィール
この記事を書いた人
めしたけ

首都圏のベッドタウンで鍼灸院をやっています。
鍼灸師キャリアは約20年。
短期の繁盛(=成功)よりも、安定継続(=失敗しない)を目指しています。
3人の子育て中のシングルファーザーでもあります。
開業・経営・生活全般など、あれこれ書きます。

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